10年前まで私は東北地方の村に住んでいた。
私の村は田舎も田舎でコンビニなんかはもちろんカフェもなく1本しか道路が通っていない森の中にあるような村だった。
私と同じ年の子供なんかは村の中にはおらず、学校が休みの日なんかは一人でゲームをしたり、森の中や近所のおばあちゃんの家で一人で遊び回ったりしていた。
物覚えついた頃からこうだったので、特に不満も違和感もなく過ごしていたし、村中の人間は全員家族のように私に接してくれていたので、私はこの村が大好きだった。
私が小学校高学年に上がった頃、村に外部からNさんという一家が移住して来た。
一家といっても母と息子(Nさん)の2人家族で、元々東京に出ていたらしいのだが、 N母の病気をきっかけに、のどかで持ち家があるこの田舎に戻って来たのだという。
持ち家はこの田舎にしては結構立派で、よくみんなが集会という名の飲み会やお茶会の会場として使っていたので、私もよく母に連れられていったものだった。
そのせいか母や父や近所のおばさんが、「何で今更戻って来たんだ」と影で噂していたのを何度か聞いた記憶がある。
Nさんは穏やかでとてもいい人だった。村では比較的若くて(多分40歳手前くらい?)新参者だったためか、草むしりや重たい荷物の運搬や村の雑務をかなりの頻度で頼まれていたが、嫌な顔一つせずいつも笑顔でこなしていた。
Nさんが移住して来て3ヶ月ほどたった頃、いつものように私が学校から帰っていると、後ろからクラクションが鳴らされた。
「私ちゃん!」
車の中にはNさんがいて、「歩くと大変でしょ?村まで送るよ?」と言ってくれた。
私の家から学校までは、子供の足だと歩いて1時間ほどかかる道のりだったのだ。
両親や村の人間はNさんをあまりよく思っていないことを子供心にわかってはいたが、私は、いつもニコニコしていてどことなく知的なNさんが好きだったので、すぐに送ってもらうことにした。
車の中でNさんは色々な話をしてくれた。
今流行っているゲームや東京での暮らしのこと、携帯電話や新幹線や飛行機のことなど、テレビでしか見たことのない私にとっては夢物語のようでとっても刺激的だった。
また、Nさんの家には最新のゲーム機があり、なんと、家に来て遊んでもいいよと言われたので、すごく興奮したものだ。
それからというもの、道で会う時は必ず村まで送ってもらい、休みの日は、Nさんの家でお菓子をいただきながらゲームをするというのが私のルーティーンになった。
自分の家と違い、Nさん家にはうるさい両親もいないし、不謹慎だがNさんのお母さんも寝たきりでほとんど床から出てこないので気を使わずに過ごせるし、正直小学生の私にとっては天国みたいな場所だった。
もちろん私の両親も知っていたが、父が「外もんとゲームばっかしてばかになるぞ」と言ってくるぐらいで、そこまでうるさく注意することもなかった。
あの時までは……。
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Source: 不思議ネット