ウェブコンテンツを制作している私は、取り扱っているサイトの性質上、不特定多数の人から「こんな怪談があるのだが」と、いわばタレコミをもらうことがある。
そのなかのひとつに、Nという人物が「この話を投稿しても良いだろうか?」と送ってきた、「殺人犯が被害者の霊に悩まされる」という内容の話があった。
筋書そのものはどこかで聞いたことのあるような正直言ってありきたりな話だが、2,500字程度のその怪談はどこか妙に生々しい不気味さを湛えていた。そのことから私はNに関心を持ち、連絡を取るようになった。
四十歳くらいになるその男性は、果たして、話に登場する殺人犯そのひとであった。あの話は、N自身が実際に体験したことなのだという。
投稿者本人が刑期を終えた元・殺人犯だったという話はにわかには信じがたかったので、私はNから細かい状況を聴き取って、実際にあった事件なのか調べてみることにした。
いまから20年ほど前、北関東のある工業都市に暮らす大学生だったNは、バーテンダーのアルバイトをしているときに衝動的に店主を殺害、遺体を隣県の河川にある水門に遺棄した。
店舗にあった売上金や店主の財布から奪った金を使って犯行後に逃亡を企て、都内を転々とするも、逃亡中に精神を病み「被害者の霊が出る」などと言って警察に自首した。
こういう趣旨の話をNから聴き取った上で、私は手始めにインターネットを検索してみたが、それらしい事件はヒットしない。
ガセか…とも一度は思ったが、事件があったのは2000年代初頭のこと。ISDNからADSLになって、一般家庭にもようやくインターネットが普及し始めたばかりという時代背景を考えれば、インターネット上に事件の情報が残っていなくとも不思議はないかもしれない。
私はそう思い直した。
N自身も「インターネットで検索しても事件の記事は出てこない。自分の更生に影響するから、と出所前に刑務官が確認してくれた。新聞になら載っている」と言っていたので、私は図書館に行って私はNが事件を起こしたという時期の新聞を読み漁った。
すると、上記の事件がほぼNの話のとおりに起こっていたことが確認できた。
今回読者諸賢に公開するのは、服役を終え出所していまは静かに暮らすこのNという男性自身の手による手記である。
公開に当たっては、もちろんNの同意を得ている。
少々長いが、私のもとに当初投稿された怪談よりもさらに仔細に事の顛末が綴られている。
また、手記の後に、私が確認した新聞記事の内容も一部抜粋して転載した。
ここに書かれていることはそのほとんどが事実である。
しかしながら、Nは人を殺した過去をもっているものの、既に刑期を終えた人物だ。
静かに暮らそうとするNのこれからの人生に配慮し、事件が特定されることを予防するため、記述の一部に変更を加えたことを読者諸賢にはおゆるし願いたい。
なお、本投稿に関してはYouTubeを始めとした動画サイト・配信サイトでの朗読、他サイトへの転載などの一切を禁止とさせていただく。
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Source: 不思議ネット